訪問介護の仕事では目が大事
人の目を見て話せ、とはよく言われることだが訪問介護の仕事では、なかなか簡単ではない。特に高齢者の場合、普通の会話で相手の目を見るということに慣れていないからだ。まず正面から顔を合わせるのではなく、室内の掛け軸や茶碗や、外の景色などを眺めながら語り合うのがよいだろう。天気の話題から切り出すことが多くなるのは、空を一緒に眺めることで見つめ合わずにすむという無意識の策とも言える。客が来てもテレビをつけたままにしておく家が増えたが、話題の切れた空白で互いに眺めるものとしてテレビが欠かせなくなっている。しかし、大事な用件を伝えるときには目は大事である。たとえば薬嫌いのお年寄りに「この薬は大事だから必ず飲んでね」と頼むとき、本当に大事なのですよと目で訴えるのだ。ことさら大声を出す人が多いのだが、それよりも目を見るのである。「~さん」と声をかけて目と目が合ったら、すぐに用件を切り出さずに一息の沈黙の間を取る。これがちょっとしたコツで、相手は「おや、何だろうか?」と集中してくれるものだ。このとき、なるべく高齢者の目よりわずかに低い位置から声をかける。にらむような上目づかいはダメで、顔全体を上向きにすることだ。正面から向かい合うと相手に誠実さが伝わるが、気詰まりな感じがしたら少し斜めにずらしてみるとよいだろう。逆に高齢者の目は、その日の心身の状態を表すバロメーターである。朝一番の声かけのときに、普段と違う目つきになっていないかに注意することだ。